2020年10月15日木曜日

有笠山(10/4)(事故報告書)

10月4日(日) 有笠山、アドベンチャーランド、海賊船というルートにて2ピン目少し上からグランドフォールするという事故を起こしてしまった。



(前半薄被りセクションが感謝の心(5.12a)、岩の先端まで行くと海賊船(5.13a))

以下事故報告書風に記載

■発生日時■
2020年10月4日(日) 12時頃
■発生場所■
有笠山、アドベンチャーランド、海賊船
■メンバー■
私、IKD君、IKD君の後輩のFK君
■内容■
感謝の心パート(5.12a)2ピン目少し上からグランドフォール


■事故の概要■
 感謝の心パートヌン掛け中、3ピン目で発生。具体的には3ピン目のヌンチャクを掛けるには、ヌンチャクがセットされている状態のクリップホールドのガバよりも1手と2歩進めねばならず、2ピン目足元少し上となってしまう。そこで安定したクリップ体制が作れず、5度くらいヌン掛けに躊躇した。
 その後自力でヌンチャクを掛ける方法を諦めて、2ピン目のヌンチャクに新しいヌンチャクを連結しループ(ヌンチャクアブミ)を作成した。作成したヌンチャクアブミに立ち上がったところ、カラビナ同士の下方(ロープが掛かっている側)の連結が外れ、ヌンチャクアブミが崩壊した。その現象によりロープが2ピン目のカラビナからアンクリップされ、私は2ピン目足首くらいからグランドフォールし、右半身を主に地面と岩に強打した。

■事故発生後の状況■
 グランドフォール直後から意識はあったが全身が痛く、どのような体制で落ちたかは自分ではよくわからない。IKD君に岩に右半身を岩に強打したことを教えてもらう。フォール直後は全身に力が入らず、ロープを外してもらったが、自力で立ち上がり歩行は可能であった。その後強い眠気が襲ってきて小一時間くらい眠った。その際に2人からマットも借りたということは記憶にある。しかしそれ以外の記憶があまりない。12時くらいに起きてからは、フェアリーエリアで登っていた知人(ISさん)に連絡を取り、一緒に帰宅させてもらった。その際には自力登下山可能であり意識もはっきりとしていた。
(アドベンチャーと駐車場を往復できるくらいの状態)
 しかし家に帰ってたら右ひざ横の皮膚が深くえぐれており、出血が止まっていないことに気づく。(黒くて厚手のタイツをはいていたので気が付かず、且つそこまで傷が深いとは思っていなかった)

■事故発生翌日~現在の状況■
 翌日朝一で脳神経外科に行き全身のCTと右ひざの外傷を確認してもらう。CTは問題なし、外傷は皮膚欠損創と言われ、脂肪層の奥まで皮膚がなくなっている状態(500円玉程度の大きさ)完全に完治するまでに1~2か月と診断を受けた。初日は消毒とフィルムを張る処置。3,4日後に数針縫った。現在は週に2,3回通院し消毒とフィルムを交換するもののなかなか皮膚が上がってこず、膝を動かすと痛みが強く走る状態。また膿のような液が溜まってきて、2日経つと液が漏れてしまうのでフィルム張替え。 

■事故の直接原因■(2点)
①ヌンチャクアブミのリスク認知不足(知識不足)
 ヌンチャクアブミにはカラビナ同士の干渉によってゲートが開くという意識がなかった。
ロープとヌンチャクアブミの位置関係に無頓着であった。
またIKD君に指摘された、ボルト側のカラビナに作成するという方法も知らなかった。

②ヌンチャクアブミのリスク検証不足(行動中の判断力低下)
 あまり作成したことがないヌンチャクアブミを作成し立ち上がるという行為にリスクの検証なしに及んだということが、平常心では考えずづらい。冷静に考えればその場でリスクを想像できる範囲の行為であったはずであり、平常心でなかったのが問題。
では、平常心でなかった間接的要因について考えてみる。

■間接的な要因■(3点)
①ヌン掛けを早く終わらせたいという焦り
自分からヌン掛けを申し出たにも関わらず、ムーブやヌン掛けがスムーズにできないという焦り。具体的には感謝の心パート1ピン目直後セクション、ランジムーブに数回失敗したのちに、1ピン目までロープを掴んで上がり、そこから数手進め2ピン目のヌンチャクを掛けた。その後事故が発生した3ピン目のヌンチャク掛けを試みるも、なかなか掛けられず、躊躇してしまったという、気持ちと行動の乖離が焦りにつながった。


②安全管理方法の妥協と挑戦権の確認不足
 約5年前、感謝の心を当時のパートナーにヌンチャクを掛けてもらいトライしていた際に3~4ピン目間でロングフォールし、グランドフォールスレスレというヒヤリハットをした経験がある。そこから大反省し、考えを改め、常に新しいルートに挑戦する際には自力でヌンチャクを掛け回収できるかを自分のクライミングのルーティンとすることにより、安全管理力や挑戦権を確認していた。
 しかし、海賊船はその掟を守れていない。
感謝の心パートは通算10日くらいやっているような気がするが、5年くらい前と昨年を通算しても、1度しかヌン掛けをしていない。その1度は昨年感謝の心RP後、海賊船をトライする際に一度はヌンチャクを掛けせねばという自責の念から、IKD君にお願いして掛けさせてもらった気がする。
当時も感謝の心パート3ピン目のヌンチャクと5ピン目のヌンチャクはヌンチャクアブミを作ってかけた。そしてヌン掛け便にも関わらず、海賊船パートの核心の4ピン目でヌン掛けで手繰り落ちしそうになった。その印象が強く残り心底怖いと思い、ヌンチャクをただ普通に掛けるという行為がネックだと1年半くらい考えていた。

③パートナーに対する後ろめたさ
 最近メキメキ強くなるIKD君にMOS権を譲ることが多く、一緒にトライしたルートのほとんどは彼に先行してもらっており、ヌンチャクを自分で掛けていないことは後ろめたく、しかしながらセッション効果や、パートナーの完登によって完登モチベーションが高まり、課題が登れてるということは一緒に同じ課題をトライする度に感じていた。
少しモヤつきながらも課題を完登できたことによってそのモヤ付きを薄れさせるという、側面を内心は感じていた。自分の後ろめたさを払拭する為に絶対海賊船のヌン掛けがしたかった。

■反省点及び再発防止のために■
・ヌンチャクアブミの知識技術不足改善
   (座学で検証してみたが、フィールドで検証する必要性有)
・ロープのアンクリップについてフィールドで検証する
・事故発生直後の全身チェックを行うべきであった
・間接的要因を長く深く考え続ける
 (今は気づかなくても数か月後や数年後に気づくことがあるかもしれない)
・事故について様々な方の意見を頂いたり、事故当事者とディスカッションするなど

■事故の総括と今後への意気込み■
 まずはヌンチャクアブミ破断~グランドフォールまでの間に死ぬかもしれない思ったので、死ななかったこと及び皮膚の欠損で済んだことは非常に幸運であると考えています。
 それから、事故当日はパーティの方々のみならず、様々な方にご心配及びご迷惑をお掛けしたことについて深くお詫び申し上げます。また人が死んだり大事故を起こすと岩場閉鎖に繋がりかねないということも深く受け止めております。

 そして別パーティーであったにも関わらず自宅まで送り届けてくださったISさんには感謝の気持ちで一杯です。車内でISさんからお話しいただいた、クライミング=自分と岩の対峙という気持ちが私には薄れてしまっていたのではないかと、1年半前にIJCでディスカッションした問題を私自身が行っていたのだなと強く深く反省しました(薄々自覚はアリでしたが…)。

 今後はケガの完治を第一目標とし、その後再発防止活動に取り組みます。そして実力をつけ海賊船完登を目指します。





1 件のコメント:

  1. はじめまして
    事故の件、大変お気の毒でした。復帰と海賊船の完登をお祈り致します。

    無知でお恥ずかしいのですが
    ヌンチャクあぶみというものをはじめて聞きました。
    そのヌンチャクあぶみというものは説明から推測すると
    ヌンチャクのビナに2つのビナをかけてスリングのワッカを踏むという解釈で合っていますか?

    自分は数年前にちょこちょこ岩場に行きはじめた初心者みたいな者で、アルパインの経験も全くない
    素人中の素人なのですがちょっと見てて思うことがありコメントさせてください。

    ーー以下素人考えーーーーーー

    岩に対して「寝ているビナ」にビナをかけると
    岩から見て「ビナが立つ」状態になりやすいですよね。

    そしてロープが通っていない側にかける…と指摘があった、とありますが、これもまた新たな危険が潜んでいます。ゲートオープン以外の話をしますね。

    固いもの(ハンガー)と固いもの(ヌンチャク)と固いもの(ヌンチャクあぶみのビナ2個)が直下に鎖のように連結されて、さらに固いもの(岩)があたっている。と書けば分かりやすいですかね。
    この場合
    スリング一本分の緩和要素も無くなっちゃうの
    で、テコの原理が起こりやすいはずです。このテコの原理が厄介なもので
    岩の突起等でテコの原理は容易に働き、ビナの破断やハンガーの変形リスク 岩の欠損が考えられませんか?

    特にゴチャゴチャしてるので何でもかんでも干渉し放題でどこにでもテコの原理が起こりやすい状況ですよね。

    例えば
    1.ヌンチャクあぶみを踏み力が加わる(力点)
    2.鎖のようになったビナに岩の突起がグリグリ当たる(支点)
    3.ハンガーが作用点となった時に
    ボルトの負担が真下ではなく真横に、つまりボルトが抜けようとする側に力が働くのではないでしょうか…?

    そして厄介な話をもう一つ。
    有笠山の岩質は脆い。岩の層が薄く、その奥は土のように柔らかい。そのためリボルトでは長い特殊なボルトを使用しているとどこかで聞いたことがあります。記憶なので曖昧です。
    開拓者の想定してない事が起きるとリスクが大きくなると思います。

    上記の現象なんてめったに考えられない。と思う方もいるかと思いますが
    このテコの原理でハンガー変形は以外とよく起こります。
    岩の欠損 磨耗等が理由でハンガーの向きが変わり どうしてでもビナが立ってしまうルートは少なくないのですよ。そしてそのルートのビナは大体変形してますね。

    フリーの岩場で回収できない問題になった場合は
    大抵のクライマーは即席のプリクリップ棒、又はボルトを踏んでTOを試みますが(よろしくないかもしれないけれど)
    ヌンチャクあぶみというものは今まで見たことがありません。
    山岳会や所属するチームによってやり方の個性はあり、初心者の私がとやかく言うつもりはありませんがその方法は推奨されるべきではないかなぁと思います。

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